ファスティングメソッド

ファスティングと生命(1)ファスティングを知る

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ファスティングを知る

ファスティングを実践、あるいは断食を希望する方にその実践方法を指導する前に、認識しておかなければいけないことがあります。ファスティングの意義について今一度考えてみましょう。
ファスティング(絶食・断食)には様々な健康効果が知られており、減量やダイエット目的以外にも、デトックスや体質改善、持久力向上や認知機能向上のため、病気の回復や長寿のため、といったように、様々な目的でますます多くの人が積極的に取り組むようになるでしょう。
具体的な実践方法やサービス展開ばかりに気を取られるのではなく、なぜ人は断食しなければならないのか、ファスティングは本当に誰にとっても行わなければならないことなのか、指導者としてその本質を根本的に理解する必要があるでしょう。

食べることは必要か?

そもそも“食べる”ことは、我々ヒトを含めた動物にとって、新しくエネルギーを獲得して生存するために欠かすことのできない、重要な行為です。これは一見自明のようにも思えますが、本当にそうでしょうか?

野生動物の中には、越冬や冬眠、子育てなどで1年の1/4や1/3を“食べずに”過ごすものもいます(3ヶ月のブリザードの中絶食して子育てをするコウテイペンギンや、4ヶ月間冬眠をするヒグマなど)。

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動物だけでなく我々ヒトの中にも、「食べずに暮らしている人」が世界中に知られています。

インドのプララド・ジャニは、西部グジャラート州チャラダ村出身のヨガの行者として有名で、2020年90歳にして老衰で亡くなるまで、約80年間も飲まず食わずだったと言われています。

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世間の関心を呼んだ彼は、2003年のインドのアーメダバードにあるスターリング病院のDr. SudhirShahをはじめとする医師団の監督の下、密閉された空間で10日間観察されましたが、彼は飲食は愚か尿も便もすることなく、身体は正常な状態を保ちました。
続くインド防衛生理学連合科学研究所(DIPAS)率いる2010年の実験でも、15日間の間不飲不食、無排泄を続けて観察されましたが、臨床検査や血液検査の結果に異常はなく、ここでも彼の主張が真実であることが実証されました。防衛研究開発機構(DRDO)の研究者は、ジャニが飢餓と水分制限への極端な形の適応を示している可能性があると推測しましたが、代謝老廃物がジャニの体からどのように排除されるか、彼が生存のためのエネルギーをどのようにして得ているのかはわからないままでした。
本人は健康維持の秘訣はヨガ、瞑想、チャクラの活性だと話していたようです。

プラーナ(光)という気が自然界に目に見えない形で存在し、その生命エネルギーを取り入れることで栄養にしている、すなわち「プラーナを食べて生きている」という主張を、本人はされていたようです。

他にもプラーナを食べて生きている人として、2000年にイグ・ノーベル文学賞を受賞した「ジャスムヒーン」氏が有名です。彼女はオーストラリアに拠点をもつ、プラーナ栄養者(固形食を摂取しない)、不食者(ブレサリアン)であり、世界的なプラーナ太陽光)栄養の実践者として活動しており、著作活動や講演活動を行っています。

日本では弁護士である秋山佳胤(あきやまよしたね)氏が有名で、2006年から徐々に食べる量を減らし、2008年から現在(2021年)までの間の13年間、基本的には水も食事も摂らない生活をしています。

森美智代(もりみちよ)氏は1983年ごろから本格的な断食と生菜食療法をはじめ、現在(2021)までの25年間の間、1日1杯の青汁のみの食事であると言います。青汁は5種類の青菜150g、水200mL、少々の天然塩を材料に作られています。

その他に、ビール酵母20錠、スピルリナ20錠、ビタミンC1錠1,000mgを摂取し、摂取カロリーは1日50〜60kcalで過ごしています。

彼女の腸内細菌が調べられたところ、酪酸菌の一種であるクロストリジウム属の細菌が、一般人の約100倍である9.8%を占めていることがわかりました。これは草食動物の腸内細菌叢に近いレベルです。

実践思想家の山田鷹夫さんは不定期に不食実験をおこなっており、左の著書は無人島にて130日間にわたる不食実験を行った経過を記録したものです。

このように、不食を実践しても平気な人がいることはかつてから広く知られており、世の中の関心を浴びたこともしばしばありました。

彼らのような不食者は一般の人よりもむしろ健康的であるとも知られており、あらためて生命現象の不思議さを感じさせられます。

 

大切なことは、彼らはいきなりこのような生活を始めたわけではないということです。植物性の未加工食品を中心に、生食などを実践しながら徐々に食事の量を減らしていき、不食でも生活できる体を獲得していったというところにポイントがあります。

いずれにしても、上記のように食べない人は確かにいるようです。
そうではない人たちにとっては驚きを隠せない事実ですが、そもそも我々にとって“食べる”ことの意義はどのようなものでしょうか?

食べることの目的

人間、あるいはその細胞が活動を行うと、その活動量に比例してエネルギーが消費され、減った分のエネルギーを何らかの形で補う必要があります。人でいうとそれは炭素鎖を持つ有機化合物に限定され、炭水化物(糖質)、アミノ酸、脂質が主になり、これらの栄養物質を食事から体内に取り込むことが「食べる理由」だと一般的には思われているでしょう。
しかし、このような理解は実際には少し正確ではないかもしれません。
確かに細胞には糖質やタンパク質、脂質が存在し、細胞はそれを利用していますが、細胞が求めるのは“恒常性”であり、最も嫌うものが“環境変動”です。すなわち、食事をする目的は細胞にエネルギー源を供給することではなく、間質液中の成分が変動しないように維持するためなのです。

1.細胞環境を保つために食べる

細胞を取り巻く環境は多くの要素で構成されており、細胞が直接接している間質液には、水、糖質、タンパク質やアミノ酸、脂肪酸、ビタミン、ミネラル、ホルモンなどのメディエーター、溶存酸素、溶存二酸化炭素などが含まれています。細胞がうまく機能するためには、それらの物質の濃度や、pHや温度などの物理化学的条件が一定範囲内に維持されている必要があり(この働きを「恒常性:ホメオスタシス」という)、そのどれかに少しの異常があれば細胞は機能不全に陥り、それが私たちの体調不良や病気につながります。
多くの人はそんなことは気にしないために、不適切な食事によって自分自身の細胞を害してしまうのです。

例えば、よくある失敗の一つが、単糖や二糖などの糖類、精製された糖質の摂取により、間質液中の糖濃度を上げすぎてしまうことです。これが肥満や動脈硬化、糖尿病につながります。

では糖質を取らなかった場合は、血糖値が下がって生命の危険にさらされるのでしょうか?

答えは否。不食時でも血糖値は下がることなく、体内において糖新生が行われて血糖値は一定のレベルを維持されます。これが、恒常性(ホメオスタシス)というものです。

では何も食べなくても完全に恒常性が維持されるのかというとそうではなく、ミネラル、ビタミン、必須アミノ酸、必須脂肪酸などの濃度は、比較的容易に正常範囲未満に下がってしまうことがあります。

自然界を見渡すと、比較的長期間の絶食に耐えることができる動物もいれば、耐えることが苦手な動物もいて、ヒトを含めた類人猿は、どちらかというと後者に属します。
なぜなら我々の祖先は、様々な種類の食べ物が比較的豊富に存在し、いつでも捕食することが可能な豊かなジャングルで長く生活した雑食動物であり、自ら栄養素を合成したり貯蔵したりする機能を進化の早い段階で失ってきたからです。例えば水溶性ビタミンは常に食物から摂ることができたので、それを貯蔵する能力は非常に乏しいと言えます。よって、少なくとも水溶性ビタミンに関しては毎日補給した方が良いと考えることは理にかなっています。

その他にも亜鉛などのミネラルや、比較的濃度が低下しやすい栄養素があり、それらは供給を断たれるとホメオシタシスが破綻し、細胞環境を悪化させることに繋がりかねません。

定期的に補給すべき栄養素がいくばくかあるからこそ、食べることが必要なのであって、消費されつづけるエネルギー源を食べ物から摂取しなければならないこととは、若干意味合いが異なります。

2.共生生物のために食べる

食事のもう一つの目的は、私たち自分の細胞にではなく、消化管内に共生している微生物に栄養素を与えるためです。

ヒトの全ゲノムが解読された結果、明確にヒトのタンパク質をコードしている遺伝子と呼べる領域は、1.5%程度あることがわかりました。ヒトは、一個体として完結して生きているのではなく、自分の細胞数以上の数の微生物(ウイルスや細菌、菌)と共生しているのです。私たちが食べなければいけないのは、ペットである彼ら、特に腸内微生物に栄養を届けるためです。

「腸内フローラ」という言葉とともに、腸内細菌がもてはやされるようになってから久しいですが、その自分の腸内細菌を養うために食べよう!という発想で食事をしている人が多くありません、

ほとんどの人間は、自分が美味しく楽しく食べられればそれで良いと考えています。栄養学を少し勉強した者であっても、せいぜいヒトの栄養要求性だけを元にして書く栄養素の必要量を算出し、(多くは国のガイドラインを盲信して)それに従って食べるのが良いと思っているくらいでしょう。
しかし、そのような指針は間違いであったことが科学的に証明されており(例えば以前は食物繊維は人間のエネルギーとならず栄養素とはいえなかったが、今では栄養素としてカロリーも勘案されている)、だからこそ、現代栄養学を鵜呑みにしても健康長寿は実現し得ないのです。

我々の大腸上皮細胞の主要なエネルギー源は酪酸を中心とした短鎖脂肪酸であり、それは大腸内の酪酸菌が産生するものです。その酪酸菌の餌が食物繊維であり、食物繊維の少ない食事を繰り返すと酪酸菌が減少し、他の種類の細菌(巷でいう悪玉菌や日和見金菌)が増えてきます。すると、大腸上皮細胞のエネルギーが枯渇し、逆に望まない細菌の代謝産物が増加します。これによって大腸の健全性が損なわれ、ポリープができたり、がん化したりします。
このように腸内細菌とその餌は大変重要なものですが、我々が行っていることといえば以下のようなものです。
すなわち、人工的に改造した“有益な”乳酸菌がくる日もくる日も新しく製造され、テレビCMやネットメディアを通じて誇大広告されています。「コマーシャライズドされた食品は健康的であるとはいえない」が健康学の常識なのにも関わらず、多く人間がそれに洗脳され、積極的に人工的な細菌の摂取に励んでいますーそれが定着するとは分かっていないのにも関わらずー。

しかし、本当に有益で大切な細菌は、例えば出産時に母親から譲り受けた“常在菌である”乳酸菌であったり、土や泥を通じて体内に取りこんだ各種の土壌細菌です。多くの人はそのような無料で手に入る大切な細菌を育てて養おうとはせず、ビジネス目的で安易に開発された人造細菌を食べさせられています。
医療現場においても、常在菌のバランスを崩壊させる抗生物質を簡単に投与するだけでなく、それと一緒に人工改変した細菌が処方されます。これは無知を通り越して、何万億年にもわたって共生してきた腸内細菌に対する冒涜行為と言えるのではないでしょうか?

 

食物繊維を含んだ食事を摂らずにいると、やがて大腸がんになる可能性が極めて高い。その大腸がんを手術で切り取っても、がんはやがて再発するか転移を繰り返す。医者は親切であるから、頼めば何度だってがんを切り取ってくれるから安心だー大金を払いさえすれば。

繊維質の少ない加工食品を食べ続けてあくせく働き稼げば、一生心配することはないでしょう。
豊かな土壌の上で、無料で手に入る共生細菌のお世話にならずとも。

 

食べ続けてはいけない理由

食べることの原点に立ち返ってその意義を考えてみましたが、ではなぜ食べることは必要なのに、努力してコストをかけてまで、ファスティングという“食べない”ことを実践しなければならないのでしょうか?

“食べる”ことは動物にとって必要であり、いずれはなくなるエネルギーや栄養素を補給することなしに、生命は存続し得ないでしょう。しかし我々のよく知る通り、食べてばかりでは病気になってしまう。

それはなぜでしょう?

その最大かつ最もシンプルな理由は、現存している動物の体は“食べてばかり”で生きられるようには設計されていないから、です。
もしかしたら、動物の進化の過程でも、遺伝子の突然変異によって、“食べてばかり”いないと生きられない動物も生まれていたかもしれません。しかし、そのような変異体は、干ばつや氷河期などの気候変動や天変地異が繰り返される自然界の中で、とうに死に絶えて絶滅してしまったのです。

だからこそ、現存している動物は、食べ続けるのではなく、食べられない時期があることを前提に作られています。そして食べられないことは単なる忍耐ではなく、それ以上に重要な意味を持ち合わせています。その際たる例が次に述べるオートファジーという仕組みでしょう。

自然界において、不利な状況を克服し、その状況を逆に有効利用するやり方は、全生物に共通した処世術です。例えば、太陽から降り注ぐ紫外線は生物にとっては脅威であるが、それによってもたらされるDNA変異を進化の原動力にしたり、細胞の各種代謝系を活性化させるためのスイッチに使ったり、そのエネルギーを光合成やビタミン合成に使ったり…。

猛毒の酸素が地球上に増えてくれば、それを利用した効率の高い呼吸を行うように変化し、ミネラル分が希薄なればそれを貯蔵する骨を作ったりして、そうして我々は生まれてきたのです。

一定期間食べられない時期があることも同様であり、その期間を利用して、動物はオートファジーや解毒など、様々な活動を行うようになりました。その活動についてよく知り、尊重することが、ファスティングを学び実践することと言えるのではないでしょうか。

食べていないときに何が起こるか

下の写真は、マウスを用いたオートファジー活性化の様子で、マウス骨格筋細胞の絶食前の写真(左)と、絶食開始から24時間を経た時のものです。

マウスを用いたオートファジー活性化の様子
絶食24時間後においては、筋肉内に白っぽく輝く無数の斑点が観察されますが、これはオートファゴソームというものであり、オートファジー(自食作用)の時に現れる細胞内構造物です。
絶食によって無数のオートファゴソームが現れ、細胞内自食作用が活性化していることがわかります。

ちなみに、マウスの寿命はたかだか2年なので、マウスにとっての24時間はヒトにとっての相当長い機会に相当します(ヒト寿命を80年とするならば40日間に相当)。

ここで強調したいのは、個体レベルの摂食活動と、細胞レベルの摂食活動は逆相関していることです。

すなわち、あなたが食べているときは、細胞はあまり食べず、食べていないときには、細胞は食べる。

これは生命の仕組みとして大変重要なことです。

続く

◆断食フィットネスジム奥多摩◆
https://kagakutokenkou.com/
<住所>
〒198-0106 東京都西多摩郡奥多摩町棚澤828-2

<概要>
奥多摩町にある断食指導ジム&フィットネスジム。栄養士に栄養を教え、医師に健康を教え、トレーナーにトレーニングを教えている。
減量や脳機能改善、デトックスなどが期待できる断食(ファスティング)プログラムの指導や、合宿形式での断食道場、断食指導者育成事業を展開しております。宿泊可。
また、解剖学や筋生理学に基づいた、正しい筋力トレーニングや栄養学に基づいたダイエット指導を行っています。

のだぱい

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ファスティングフィットネス協会理事
科学的に正しい断食と筋トレを教えるトレーナー。断食先生。
東京大学農学部で栄養学や生化学を学び、『農学部長賞』『東大総長賞』などを受賞。
ウソに塗れる健康産業の荒波の中で、栄養士・医師にも支持される食事指導や、解剖学に基づいた「正しいトレーニング」をトレーナーや整体師に指導している。
奥多摩で断食道場兼パーソナルジムを経営。「全然辛くない」ファスティング(断食)プログラムの指導・指導者の育成を行っている。

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