ワインは健康にいい?『フレンチパラドックス』について
【フレンチパラドックス】という言葉をご存知だろうか。
フレンチパラドックス(フランス人の逆説)とは、
・フランス人は欧米諸国の中でも相対的に美味しいものをたくさん食べ、ワインもがぶがぶ飲んでるのに、ドイツ人やイギリス人、アメリカ人に比べて寿命が長くて心筋梗塞や脳卒中などの血管系疾患の割合が低い
と観察されることである。
ボルドー大学の科学者であるセルジュ・ルノー氏が提唱してから長い間、
乳製品やお肉をたくさん食べ、ワインからアルコールを多量に摂ってもフランス人が比較的に健康的であるのは、大好きなワインの中にポリフェノールの一種である「レスベラトロール」が豊富に入っていて、それが体の中で様々な抗酸化作用を担っているからだ。
と、一般的には受け入れられてきました。
あまりにも有名な話だし、皆さんの中にも、なんとなく「ワインは健康的」というイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。
実際にヨーロッパ諸国のアルコールの飲用習慣と心筋梗塞死亡率を調べた研究では、
・ワイン由来アルコール消費量が多い国ほど、心筋梗塞による死亡率が低い
ということがわかりましたし、
同じ国内(デンマーク)で、飲むアルコールの種類と総死亡率の関係を調べた調査では、
・ビールや蒸留者など他のお酒では飲む量が増えるほ総死亡率が増えるか横ばい、なのに対し、ワインでは飲む量が増えるほど死亡率が減り、1日にワインを3~5杯飲む人では「お酒を飲まない」人と比べても半分近くになる。
という結果が得られました。
ですが、少し前にWIREDでも話題になっていたように、ジョンズ・ホプキンス大学医学部の研究者がフランスキャンティ地方の人々を10年にわたり追跡した調査では、
体内のレスヴェラトロールの濃度(少なくともワインによって摂取されたもの)と、炎症マーカー、循環器系の病気、ガン、死亡率一般との間には、いかなる相関関係も存在しない。
と結論づけられました。
『フレンチパラドックス』は迷信か?
ではフレンチパラドックスはただの迷信だったのか?
ここで、絶対的なワインの量だけではなく、「ワインを飲む人はどのような人たちか?」「どんな食生活をしているのか?」と考えてみると、より示唆的な結論が浮かび上がってきそうです。
ワインを飲む人は、何を食べている人?
アメリカで行われた研究では、日常的によくお酒を飲む人がどんなものを食べているのかが調べられました。
その結果、
・「ワインをよく飲む人」は、「ビールや蒸留酒など他のお酒をよく飲む人」や「お酒を飲まない人」に比べて、野菜や果物を食べる量が相対的に多く、また、赤身肉や揚げた肉の消費量が少ない。
ということがわかりました。
世界が恐れる「食塩」のハナシ
上の先日の記事でも述べましたが、
野菜や果物は血圧を下げる働きを持つカリウムを多く含み、低カロリーで食物繊維を多く含むので血管疾患系を防ぐ方向に働くでしょう。
逆に、牛肉や豚肉などの赤身肉は飽和脂肪酸が多く、心筋梗塞と関連していることはよく知られています。
すなわち、ワインそのものに何が入っているのか、というよりも、
『一緒に何を食べているのか』
という観点で見ると、
・ワインは相対的に、心筋梗塞を防ぐ食べ物に合う(あるいは、一緒に飲まれることが多い)
・ワインを飲むような人は(特にわざわざ選ぶような人は)、健康意識が比較的高い
という別の要因が示唆されます。
ワインと一緒に、何を買っている?
さらに、デンマークで大手スーパーマーケットの協力のもと行われた調査では、
ビールを買った客、ワインを買った客が、それぞれどんな食べ物を一緒に買っていたかが調べられ、
・ワインを買う人は、「オリーブ」「野菜や果物」「低脂肪乳やチーズ」「低脂肪肉」「鶏肉」「植物油脂」を一緒に買うことが多く、
・ビールを買う人は、「ソーセージ」「ソフドリ」「マーガリンやバター」「ポテチ」「豚肉」を一緒に買うことが多い。
という傾向が明らかにされました(2個目の写真)。
上記を考えると、
どうもワインを飲む人は健康意識が高く、心筋梗塞の予防に効果がありそうな野菜や果物、低脂肪の食品を食べているようだ。
と推測でき、むしろこちらの方が「心筋梗塞や総死亡率が低い」ことの理由として考えた方が賢いのかもしれません。
特に、この「ワインを飲む人」の中には「ワインが健康にいいと聞いたから好んで飲んでいる」という人もかなり多く含まれているでしょう。
そんな方々は、「お酒はワインを選ぶ」以外にも、「定期的に体を動かす」とか「テレビを見る時間が少ない」など、他の健康的な特性を持ち合わせているかもしれません。
結局これも、前回の「朝食を抜く人は太っている」の話に似た、「相関関係と因果関係」の話だと、僕は理解していますが、皆さんはどう考えますかね?
「朝食を抜くと太る」は本当か? – 身近な科学のウソ・ホント
まとめ
・ワインの摂取と心血管疾患や死亡率には負の相関が見られる。
・アルコールの中でも、ワインだけは特に、心筋梗塞や総死亡率のリスクを下げそうだ。
・しかし、ワインに含まれるレスベラトロールが人体で抗酸化作用を発揮していい影響を及ぼすのか、まだよくわかっていない。効果がないとする研究もある。
・ワインをよく飲む人は、野菜や果物の摂取量が多い傾向がある。
・ワインを買う人は同時に、植物性の油脂や果物や野菜、低脂肪生の肉や乳製品を買うことが多い。
・総じて、ワインをよく飲む人は、アルコール摂取以外の、生活習慣における健康度のスコアが高い。
・ワインの健康効果は、そこに含まれる成分よりも、それを選ぶ人の属性や意識、生活習慣の違いによるものと考えてもいいかもしれない
補足
今日は時間がないのでこれまでですが、以下まとめというか補足というか、伝え忘れたTipsを書き残しておきます。
・ワインを飲めば飲むほど心筋梗塞にかかりにくい、というのは不思議な話だが、実はアルコール全般に、心筋梗塞や脳卒中などの「血管が詰まる」病気を防ぐ効果があることはアルコール摂取の「Jカーブ」としてよく知られている。すなわち、アルコールの血管拡張作用によって、少なくとも「詰まる」系の疾患に関しては、「適量飲む」方が「飲まない」人に比べて発症しにくい、ということだ。ただ、この効果は「適量」を過ぎると頭打ちになり、一方でそのほかの病気のリスクや事故や怪我のリスクが急上昇するので、飲めば飲むほど健康、というわけでは決してないし、そもそもこの中にも「相関関係と因果関係」のくだりは入っているだろうし、アルコールの血管拡張作用だけが帰結の要因の全てではない気がする
・レスベラトロールは確かに化学的に「抗酸化物質」だし、その抗炎症作用や寿命延長効果は、マウスや他のモデル生物ではある程度確認されているようだ。ただ今の所すくなくとも食事から摂取する量で、何かの疾患リスクを人間で下げるという効果は認められていない。
終わり。
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