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世界が恐れる「食塩」のハナシ

世界がとるべき「減塩」というアクション

ちょっと前の投稿でも言いましたが、

2011年に国際連合が発表した「生活習慣病対策のために世界全体がとるべき5つのアクション」には、世界全体で解決に向けて取り組むべきトピックが優先度順に並べられています。

そこには、

1位:タバコ

2位:食塩

3位:肥満、不健康な食事、運動不足

4位:有害飲酒

5位:心血管系疾患

と、あります。

1位がタバコなのは皆さんも納得する通りかと思いますが、2位に「食塩」と来ています。

食塩が血圧を上げて体に悪いと言うのは誰でも知ってることだと思いますが、
その下の3番目を見ると「肥満&不健康な食事&運動不足」とあります。

これらは生活習慣病の根本的な原因である事は誰でも承知の通りですが、
諸悪の元凶であるようなコイツら全てをひっくるめたものを差し置いても、
食塩が第2位にあげられているというのが驚くべきことです。

それほど人類にとって食塩による健康被害が大きいと言うことの表れでもあります。

てか、MECE(モレなくダブりなく)で考えれば、3位の「不健康な食生活」に「高塩分の食生活」とかも入ってそうなものですが、あえてそこから分離して1つのトピックとして記載されているということは、それだけことが重大だということでしょう。

実際問題、食塩の生摂取基準は世界でも日本でも年々厳しくなっていってます。

長い間日本では、厚生労働省が成人1日あたり10グラム未満と推奨していましたが、2015年には男性が8g未満、女性が7g未満に引き下げられています。

それでも世界では甘い方で、アメリカやカナダやノルウェーでは6g未満、WHOの基準では5g未満とされてます。

食塩は、摂れば摂るほど確実に血圧を上げる

食塩が悪いのは高血圧の原因になるから、と知っていると思いますが、この機会にぜひ、

『食べ過ぎなければ良いというわけでは無い』

ことを知っておいてください。

研究結果が明らかにしてるのは、多寡にかかわらず、

『食塩をとればその分だけ将来の血圧が確実に上昇する』

ということです。

世界52の地域から合計1万人について調査した大規模な権威ある研究によると、

1日何グラム未満なら大丈夫、何グラム以上なら危険、というわけではなく、
『食塩を1gでも多くとればとるほど、将来の血圧上昇につながる』
というエビデンスが出ています。

例えば日本人成人の食塩摂取量の平均値は1日11gですが、この研究の試算によると、
毎年0.64mHgだけ確実に血圧が上がっていくようです。

日本人の平均は11gということで摂取基準量を大きく上回っているのですが、食塩をグラムで考えたところでイメージつきにくい方も多いかもしれません。

これを聞いたら心が折れそうになると思いますが、

・味噌汁がお椀一杯で1グラム

・カップラーメン一杯で6グラム

・マクドナルドのチーズバーガー1つで2グラム

です汗。

これで1日7-8g未満とか、めちゃくちゃ無理ゲーじゃん…とくじけそうになるかもしれませんが、肥満や運動不足よりも将来確実に疾病リスクに効いてくると考えると、真面目に向き合っていかなければなりません。

アメリカの研究では、アメリカ人成人全員が1日あたり3グラムだけ減塩するという仮定をすると、脳卒中や心筋梗塞による死亡率が3.5%下がるという試算が出ました。

さらに、

1グラムの減塩でも『アメリカの高血圧患者全員全員が降圧剤を飲むと仮定した場合に期待される死亡率の減少』よりも減塩による予防効果の方が大きい
という結論にいたりました。

高騰する医療費や社会保障費のことを考えると、いかに一人一人が減塩を意識したり、社会全体として塩分摂取を少なくする取り組みが必要かが分かります。

日本人のほとんどが誤解している「塩分」と「減塩」

多くの人に知っておいてもらいたいめちゃくちゃ重要なことがあります。

塩分を減らそうとする時、ほとんどの人は【食塩】を気にすると思いますが、
実はこの血圧上昇につながる「塩分」というのは、ナトリウムのことを指してます。

文字の意味というか科学的には【塩(えん)】というといろんなイオンのことを指すのですが、
【食塩】とは塩化ナトリウム(NaCl)のこと。そのうちに血圧上昇に関与するのはナトリウムイオンです。

少し知識のある人はわかるかと思いますが、このナトリウムイオンは食塩だけに含まれるわけでありません。

日本が誇る【うまみ成分】である【グルタミン酸ナトリウム】や【イノシン酸ナトリウム】にも、その名前の通りナトリウムイオンが含まれています。

すなわち、減塩をするためには、

食塩(塩味)だけを減らせば良いのではなく、旨味(別のナトリウム塩)を含めて摂取量を減らす必要がある

ということです。

このことを知っていないと、食塩を抜いて代わりにうまみ調味料をたっぷり入れたり、鰹節や昆布からちゃんと出汁をとって、塩を加えずに作った味噌汁を安心してがぶ飲みする(本当はナトリウム塩が入っているのにもかかわらず)ということが起こります。

正しい減塩は、正しい知識から。

塩味がするものだけではなく、旨味が含まれているものにはすべてナトリウムイオンが入ってることを考えると、

減塩というのは、塩辛い料理を避けるというだけではなく、食べ物の旨味から逃げる必要があるのです。

おいしいものを食べることを楽しみながら、減塩を実践するのがいかに難しいかというのがわかると思います。

補足(食塩と塩分と塩の違い)

【食塩】:しお。塩化ナトリウム(NaCl)のこと。

【塩分】:日常使いでは「食塩」のこと。鉄を鉄分と呼ぶように概念的な用語であり、化学用語ではない。

【塩(えん)】:陽イオンと陰イオンによるイオン化合物の総称。塩化ナトリウムや塩化マグネシウム。硫酸カルシウムなど。

【ナトリウム塩】:塩(えん)のうち、ナトリウムイオンと別のイオンによる化合物のこと。塩化ナトリウムやグルタミン酸ナトリウムなど。

上記のうち、血圧上昇に関わるのは、ナトリウムイオン。

本当に「減塩」するための方法は?

では、そんな難しい減塩を実践するにはどうしたらいいのか。

減塩法①:食塩の使用量を減らす

うまみの成分であるグルタミン酸ナトリウムやイノシン酸ナトリウムを減らす事はとりあえず置いといて、まずは食塩を減らしましょう。

オーストラリアでの研究の結果、ソルトシェイカー(塩を振るやつ)のフタの穴と食塩の使用量の間には、とても強い相関があることが示されています。

すなわち、キッチン台に置いてあるソルトシェイカーの穴が大きければ大きいほど、料理の種類や味付けとは無関係に、人はたくさん食塩を使ってしまうということです。

なんとなく自覚があるかもしれませんが、私たちはきちんと味を見て判断することなし、無意識に同じ回数だけ塩を振っているということです。

なので、まずはソルトシェイカーの穴が小さいものを買う、か、

個人的にはそもそも「純粋な食塩」を食卓やキッチンにおかないことをおすすめします。

日本には、醤油を中心にたくさんの食塩を使った調味料があり、これで調理には事足りると思います。

純粋な食塩を使う機会は、何か繊細な料理を作る必要がある専門家の方以外にほとんどいないでしょう。

もちろん、それ以外の調味料にも食塩はたくさん含まれますが、その他にも様々な成分が重なっている分、純粋な食塩で味付けするよりも結果的に食塩使用量が減る事は推測されます。

確かに塩はおいしいです。

でも、塩がなくても、胡椒や唐辛子、あるいはターメリックなど様々な香辛料を使うことで、食塩に相当するエッジ効いた味のベースを作ることができます。

ぜひ味付けの中心に、食塩ではなく様々な世界のスパイスや香辛料を試してみるようにしてください。

減塩法②:加工食品に頼りすぎず、料理を通して複雑な風味を味わう。

構造的には似たような話なのですが、

減塩しながら美味しい料理を作ろうとするとき、そのソリューションはほとんど1つに集約していきます。

それは、

『最終的に完成する料理を、様々な味成分や匂い成分を含んだ、複雑なものにする』

ということです。

ざっくり言ってしまえば、味や匂いが複雑であれば複雑なほど、そこに含まれる絶対的な成分量に対して、人間は食べ物においしさを感じるはずです。

はっきりエビデンスとして示されてるわけでは無いのですが、直感的には何となく納得できると思います。

人間は自分の生存に必要な物質においしいと感じるように味覚や嗅覚が進化してきていることを考えれば、多様なミネラルやうまみ物質を含んでいる複雑な食品の方が、相対的により美味しく感じるという事は想像しても良いでしょう。

すなわち、旬の食材や新鮮な材料を使って、素材の味を活かしたり、少量多種の調味料を使ったりして調理して、あたかいうちに美味しく食べることが大切。

逆に、機械的に最適化された加工食品やファーストフードのおいしさは、純粋な食塩やうまみ調味料のみでシンプルに構成されているぶん、その成分をたくさん使わないと我々はおいしさを感じないわけですが、生の食材を使って複雑な成分プロファイルを伴った料理を作ることによって、われわれはあまり食塩やうまみ成分が相対的に少ない量でも、美味しく楽しめるというわけです。(これはあくまで僕の主張ですが。)

自炊や地産地消の考え方は、世界全体で取り組むべき減塩の課題にとっても重要ということですね。

われわれはこうやって、できるだけ素材の味・自然の味を楽しめる調理の工夫、あるいはそれを楽しむような心の持ち方の工夫をすることによってしか、「美味しく減塩」というのは実行することができないのです。

あとは、薄味の料理に慣れていく、それ以外にありません。

では他にソリューションはないのかというと、1つあります。

それは、カリウムを摂るということです。

減塩法③:カリウムを摂取する

ナトリウムとアルコールは血圧を上げる物質ですが、それに対してカリウムは血圧を下げる、あるいは上がるのを防いでくれるありがたい栄養素です。

このカリウムを積極的に摂るようにすれば、ナトリウムによる血圧上昇の効果を抑えることができます。

さて、カリウムはどんな食品から取ることができるでしょうか。

厚生労働省の研究によると、日本人がカリウムをとっている食品群は、多い順に、

・野菜

・魚介類

・果物

です。

野菜がダントツで全体の3割程度を占めていて、魚介類と果物、それに次ぐ他の食品群からの摂取量は大体同じ位です。

いろんな食べ物からカリウムが取れるわけですが、カロリーあたりのカリウム含有量は、圧倒的に野菜が高い。

なので、エネルギーを取りすぎずにカリウム摂取量を増やすには、野菜を食べるのが一番ってことですね。

野菜を食べなきゃいけないことは誰でも知ってると思いますが、血圧上昇を防ぐためにも野菜がオススメであるということは、いま一度認識しておきましょう。

日本人はカリウムのとり方がヘタ?

実は日本人は、世界の中でもダントツに、カリウムを多く含む野菜と果物を、たくさんとっている国民です。
(野菜と果物の合計摂取量は、イタリア1位、日本2位、フィンランド3位。)

ですが、同程度の野菜と果物の摂取量がある他の欧米諸国と比べて、カリウムの実際の摂取量は少ないとされています。

食べているはずの野菜や果物に比べて比べて、摂取しているカリウムの量が少ない。

これははっきりとわかっていますせんが、土壌の質の違いや、日本人がまめな性格で料理の仕方が繊細なぶん、食べる前にカリウムが廃棄されていることが理由かもしれません。

欧米諸国に比べて、野菜の皮むきや水洗いが丁寧だったり、ゆで汁を使わずにそのまま捨てるという習慣が、日本人には多いのではないでしょうか。

野菜を下ゆでしたり洗ったり、丁寧に調理をする事は料理文化としては誇るべきことですが、食塩大国として、もっとカリウムを摂取するためには、野菜を皮のまま使ったり茹で汁もそのまま食べたり、もう少し大雑把に調理した方がほうが良いようです。

また、日本人は欧米諸国に比べて穀物への依存度が高く、しかも白米を好みます。

コメなどの穀物も、精製度が高い方がカリウムは減ってしまいます。

毎日食べる主食である分その差は蓄積します。白米ではなく玄米にしたり、精製度の低い穀物をすすんで食べるようにしましょう。

ここまで読んでくださった皆さん、家族の健康のためにも、食卓から食塩をなくしてみませんか?笑(笑えない)

のだぱい

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ファスティングフィットネス協会理事
科学的に正しい断食と筋トレを教えるトレーナー。断食先生。
東京大学農学部で栄養学や生化学を学び、『農学部長賞』『東大総長賞』などを受賞。
ウソに塗れる健康産業の荒波の中で、栄養士・医師にも支持される食事指導や、解剖学に基づいた「正しいトレーニング」をトレーナーや整体師に指導している。
奥多摩で断食道場兼パーソナルジムを経営。「全然辛くない」ファスティング(断食)プログラムの指導・指導者の育成を行っている。

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